トヨタ式改善は必ずしも効果があるわけではありません。
多くの加工業に関しては、トヨタ式が合わないと考えます。そのポイントについて御伝えします。
1.トヨタの目指す形
トヨタ式改善はトヨタ生産方式の確立のためにできた改善手法です。
トヨタ生産方式では自働化、ジャストインタイムを2つの柱と定義しています。
自働化
異常が発生したら機械がただちに停止して、不良を造らない
ジャストインタイム
各工程が必要なものだけを、流れるように停滞なく生産する考え方
トヨタはこの2つの柱により、「確かな品質」「タイムリー」に造ることを達成し、その結果として、原価低減という効果を得る事ができました。
2. 多くの加工業はなぜトヨタ式が合わない?
私は「加工業」はトヨタ式が合わないと考えます。
加工業とトヨタ式
切削加工・板金加工などある特定の加工についての専門家
私自身が切削加工の職人でしたし、工場長として改善手法の勉強をして、トヨタ式が合わないと感じました。
ただ、工場長時代には、「なぜ」合わないのかがはっきりとはわかりませんでした。
なぜうまくいかない?
加工業とトヨタ生産方式とでは大きな違いがあります。
コンサルタントとしてトヨタ式改善が加工業に合わないとした考えた理由は大きく以下の2つです。
「少量すぎるため自働化が出来ない」
加工業では多くの品種を少ない量で加工しています。私のいた会社では、一品加工が非常に多かったです。
トヨタの自働化は誰がやっても同じ作業になるようにしたうえで、ラインを完成させていきます。「人間である必要」がないところまで突き詰めるため、機械化ができるわけです。
あなたの会社は自働化できますか?
「工程間移動が少なくジャストインタイムの考え方とマッチしない」
私のいた会社ではフライス加工・旋盤加工など、それぞれの技術者がほぼすべての加工を完成させていました。そのため工程間(担当者)の移動がほぼありませんでした。
ある意味で加工業はすでにジャストインタイムで生産しています。
つまりトヨタ生産方式の2つの柱とマッチしない加工業は、トヨタ式改善が合わないのは当たり前であると考えます。
もちろんトヨタ式をそのまま当てはめた場合に限られますが、本を読んで実践してみた場合や、コンサルタントがトヨタ式をそのまま導入しようとした場合は改善が進まないでしょう。
3. トヨタ式が合わない企業はどうする
トヨタ式が合わない企業では独自の問題点を明確にする必要があります。
問題が明確になれば、それをどう解決するかに絞って改善をおこなっていきます。
ここではありたい姿・方針・戦略についてお話していきます。
ありたい姿の設定
トヨタ式が合わない企業に限らず、まずありたい姿の設定が必要です。企業の問題点はありたい姿とのギャップにのみ存在します。
5年後どうありたいか?明確にすることで現在の問題点を見つけていきます。
私が支援する場合は、財務諸表で確認できるものを中心に設定していただいています。具体的には、売上や利益率についての目標です。
その売上や利益率を達成するためにどうするかを考えていきます。
方針
ここでいう方針とは、誰に何をどうのように提供する会社かという事業領域について、考えていただきます。あるドリルメーカーでは「お客様はドリルではなく、穴が欲しいんだ」ということを明確にして、お客様の求める形状に加工できる工具を提供しています。
お客様のニーズを再考することで、当社がどうあるべきかを考えていきます。方針が決まると、企業としての改善の方向性が明確になります。
戦略
ありたい姿の達成のために行っていく戦略を設定します。
例えば、売上2倍を目標にした場合、顧客の獲得が大きな課題となるでしょう。ここでは大きく2つの戦略についてお話します。
ターゲットを変えるという戦略を打ち出した場合
ターゲットが変われば当然求められる製品が変わります。製品が変われば品質・技術など現場に求められるものが変わります。当然生産量や価格についてもノウハウが必要となります。
現在のターゲットにさらに多くのものを提供する場合
生産量が大きく変わってきますね。あるいは価格を上げる工夫というのも選択肢かもしれません。生産力の強化や付加価値向上といったノウハウが必要となります。
このようにありたい姿・方針・戦略を決める事で、どういう改善が必要なのかが少しずつ見えてきます。次回はありたい姿から改善案を生み出す方法をお話ししたいと思います。
まとめ
日本を代表するトヨタの改善は世界的にも有名な大変優秀な改善手法です。
ただし、全ての会社に合うわけではありません。
まず自分の会社がトヨタと比べて違う所を把握する事。
またありたい姿がトヨタと同じなのかどうか?を再確認してみましょう。
そのうえでトヨタ式改善が使える所や、考え方があれば上手く流用してみましょう。